「岡山臨港鉄道」の“軌跡”をたどる小さな旅

「岡山臨港鉄道」の“軌跡”をたどる小さな旅
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岡山県内にはかつて、多数の鉄道路線があり、中心市街地と工業地帯や郊外の住宅地とを結び、人やモノを運ぶ主要な輸送手段でした。その中の一つが、岡山市中心地と岡南地域を結んだ「岡山臨港鉄道」です。すでに敷設されていた「岡南鉄道」を引き継ぎ、1951年(昭和26年)に開業。「りんこー」、「りんこう」の愛称で親しまれ、通勤通学の足として、岡南地域の経済発展の大動脈として活躍しました。低コストの海上輸送への転換やモータリゼーションを受けて、今から約40年前の1984年(昭和59年)に廃止になりましたが、今も残るりんこーの軌跡を探してみました。

掲載日:2025年12月26日  
更新日:2025年12月25日

ライター:頼實

園児たちに愛される「りんこー」の図書室

「電車がある保育園」があると聞きつけ、まずは岡山市南区千鳥町にある「ちどり保育園」へ向かいました。県道40号線岡山港線を一本中に入ると、突然、電車が目に飛び込んできました。昭和50年代、岡山臨港鉄道を走っていたディーゼル気動客車「キハ7003」です。
お馴染みのクリーム色、水色、エンジ色の“りんこーカラー”で、園長の矢野竹子さんによると、5年ほど前にペンキを塗り替えたばかり。園児からは「りんこーせん」と呼ばれ、図書室とピアノ教室に利用されています。

実際にキハ7003が走っていた当時の写真を「岡山臨港」(鉄道会社として官民共同で設立された岡山臨港鐵道が前身)にお借りしました(上の写真)。
1958年製のキハ7003は、夕張鉄道(北海道)、水島臨海鉄道(倉敷)を経て、岡山臨港鉄道へ転入しました。
1984年の鉄道事業廃業後、ちどり保育園が「地元に客車を残したい」と手を上げて、翌年に保育園への譲渡が実現しました。移設作業は夜間行われ、敷地内へは最終的にレールを敷いて運びこんだそうです。

今にも走り出しそうな車両

矢野さんの案内で内部を見せてもらいました。
座席を外しフローリングになった車内には、壁に沿って絵本棚が並んでいます。革張りの運転席や吊り革、案内表示などは現役当時のまま。残された吊り革越しに車窓を眺めていると、今にも電車が走り出しそうです。一つひとつの意匠がレトロで可愛く、しばし見惚れていると、「今でも動くと思いますよ」と矢野さん。

「『窓際のトットちゃん』のお話の中に電車の教室がありますよね。受け入れを決めた理事長はその電車の教室をイメージしたそうですよ。実際に教室として使用していた時代もあったと聞いています」と矢野さんから教えてもらいました。
移設の際には、信号機や合図灯などの鉄道用品も寄贈されて、それらもペンキを塗り直して、大切にされていました。

継承される鉄道事業者のDNA

続いて、南区海岸通にある岡山臨港本社も訪ねました。
本社前には、創業初期に活躍した「デーゼル機関車102号」が通りからよく見える場所に展示されていました。
岡山臨港は、鉄道事業から撤退後、倉庫・運輸業を柱とした総合物流業へと事業内容を変換し、現在40棟を超える倉庫・建物を所有しています。

本社事務所は1953年に建てられた社屋を現在も大切に利用しています。70年以上にわたって、岡山臨港鉄道のさまざまな車両が行き交う様子や、変わりゆく岡南地区の様子を見つめ続けた「生き証人」です。エントランスには、歴史を今に伝える鉄道プレートや手書きのダイヤグラムが飾られています。
時代とともに事業内容が変化しても、「鉄道事業で培ったスローガン『安全・安心・確実』のDNAを今も受け継いでいます」と、管理本部長の大前好信さんに教えてもらいました。

鉄道が走り抜けた痕跡を探して

鉄道の痕跡について大前さんから情報を得ました。
本社事務所の南側を運行していた岡山臨港鉄道は、岡南地域の工業の中心地・岡山港エリアと大元駅を結び、岡山県の経済発展に寄与しました。事務所すぐ裏には、ズバリ「臨鐡橋」の橋名板があり、当時使われていた橋桁の姿を下から覗き見ることができます。

岡山港に向かってさらに南下すると、鉄道が上を走った「港橋」という当時の橋が残っていました。企業への引き込み線もこの辺りで枝分かれしていたそうです。
その傍の岡山臨港敷地内には「8キロポスト」が大切に保存されていました。

季節の移ろいを感じる「臨港グリーンアベニュー」

鉄道跡に1994年に整備された遊歩道「臨港グリーンアベニュー」にも出かけてみました(写真は11月中旬撮影)。大元駅から岡南泉田駅までの全長約2キロの歩行者・自転車専用道路で、植栽が美しく、町中のオアシスのような存在です。四季の移ろいを感じられる並木道は、散歩やジョギングにも良さそうです。
途中、旧新保駅のプラットホームをそのままリニューアルした休憩所も。ホーム跡にはベンチが設けられて、鉄道運行時の雰囲気を楽しめる場所です。

大元駅にはシェアサイクル「ももちゃり」のサイクルポートがあるので、臨港グリーンアベニュー巡りに活用してください。
りんこーが走っていた痕跡を巡る小さな旅。その鉄道の歴史を語り継いでいきたいと願う人たちの思いを感じ取ることができる旅となりました。

参考資料『岡山臨港鐵道50年史』

岡山市公式観光情報 OKAYAMA KANKO.net