都市鑑賞者・内海慶一さんと行く町歩き〜表町商店街のレガシー(街角遺産)編〜
まさかの開閉式!表町商店街のアーケード
「表町商店街の上を見ながら歩くと、それぞれの通りごとにアーケードのタイプが異なることに気づくと思います。これらのアーケードは実は開閉式。僕もまだ開閉しているところを見たことがありません」と内海さん。ということで、今回特別に中之町商店街の方にお願いして、アーケードを開閉してもらいました。
「わ!本当に開いた」。グググググイーンと機械音が唸り、商店街内に光が差し込みました。頭上に青空が広がる見慣れぬ光景に、その場にいた通行人も次々と写真撮影。ものの数分で、お馴染みのステンドグラス調アーケード一枚分が水平にスライドしました。
ステンドグラス調アーケードは1978年の設置。「本当はたまに開けたほうがいいのだけれど、商品に日光が当たってしまうことを気にするお店もあるので、普段はあまり開閉していません」とレディースショップ「プロス・ワイ」の横山卓司さんに教えてもらいました。
「この開閉を見たい人は全国にいると思います。アーケード開閉タイムみたいなものがあれば、見に来る人は多いのでは」と内海さん。
表町商店街の最も北側にある上之町のアーケード(アムスメール上之町・1991年設置)の開閉も見ることができました。こちらは、開閉スピードはゆっくりながら、全体の1/3が開いて視界良好。
「アーケードは神村鉄工株式会社のカミムラ式アーケードといいます。いろいろな賞も受賞しているアーケードの専門会社です」と内海さん。
アーケードが開くと、頂上部分にアムスメール上之町のロゴマークが出現。北側を見ると、普段と違った角度から見上げるシンフォニーホールの姿も見えます。「過ごしやすい季節やイベント時に時々開けています。アムスメール上之町は植栽があるので、光や雨を意識的に取り入れています」と話すのは、靴専門店「ハッシュパピー」の鳥越達夫さん。
表町商店街のアーケード。運が良ければ開閉しているところを見られるかもしれません。
まるで帯!「上之町3号ビル(上之町ビル)」
「ところで、防火建築帯を知っていますか?文字通り帯のように細長い建築物で、火災の延焼を防ぐために作られた不燃化ビルのことです」と内海さん。「上之町ビル」の呼び名で知られる上之町3号ビルへと、案内してもらいました。
内海さんによると、1952年(昭和27年)に施行された耐火建築促進法に基づき、全国で防火建築帯が作られました。上之町ビルもその一つで、商店街の通りに沿うように、長細いコの字型になっています。
写真は1961年(昭和36年)竣工時(『岡山の建築 1950-64』より)。
ビルの全体像が把握しにくいですが、間口は「ハッシュパピー」横の出入り口からレコード店「グルーヴィン岡山店」まで。「普段はアーケードがあるので、ここに5階建てのビルがあるとは思いませんよね」と内海さん(上の写真はアーケードが開いているところ)。
表町商店街では、上之町ビル以外にも、上之町、中之町を中心に10棟近い不燃化ビルが建てられ、現在も使用されています。
上之町ビルのかわいいディテールたち
上之町ビルのチャームポイントを教えてもらいました。
内海さんは、2020年に、都市鑑賞会「内側から見る岡山」(岡山県文化連盟・おかやま文化芸術アソシエイツ主催)のナビゲーターを務め、岡山のビルの魅力を参加者に伝えました。溝口さんもその鑑賞会に参加して、上之町ビルのトイレタイルの可愛さなどに惹かれたそう。「エレベーターに2階の表示がないのは、1階2階が商店兼住居だったため。3階、4階がテナントになっています」と内海さん。
「ここが一番かわいいところです」と指差す内海さん。
1階の「1」から最上階の「R」までの階段表示がなんとも脱力系のかわいさ(写真は「R」の階段表示)。「『1』にいたっては、ただの棒に見えます。ぜひ確認してみてください」
廊下は、防火建築帯と呼ぶのに相応しい超ロング。3階と4階の廊下の向きが異なっていて「迷路のようで毎回迷ってしまうんですよね」と、内海さんは笑います。
ビジネス街の貴重なレガシー「11号ビル(山陽ビル)」
もう一つ不燃化ビルを内海さんに紹介してもらいました。
上之町ビルと同じく、1961年(昭和36年)竣工の山陽ビル(中之町11号ビル)です。県庁通りを挟んで天満屋岡山本店の北側に位置し、「ぎんざや」や「アサノカメラ」が入居しています。
写真は竣工時(『岡山の建築 1950-64』より)。
天満屋岡山本店7階のファミリーレストランからの現在の眺め。窓などは改装されていますが、竣工当時の面影を残しています。
左側の白いビルが「表町アルバビル新館」で、右側の茶色いビルの1、2階が「山陽ビル」、3階から上が「表町アルバビル旧館」。オーナーが異なるので呼び名も違うのだと内海さんが解説してくれました。このビルには全国的にも貴重なレガシーが2つも残されているそう。
一つ目は、山陽ビル1階の通路にある「メールシュート」です。上階の郵便差し出し口に手紙を入れると、シュートを伝って1階のポストに投函できるという仕組み。内海さんが「現存するメールシュートは全国でも数える程しか知りません」と話すほどレア。竣工時は、5階に岡山県開発公社、上階には企業が入居。郵便が情報伝達の主力だった時代に、大切な郵便物が目まぐるしく行き来する様子が想像できました(集荷は2008年に廃止)。
「二つ目は山陽ビルの南側の外壁にあるオールド送水口。これも見てほしいポイントです」と内海さん。
この送水口の珍しい点は、村上製作所製の「差込式」というところだそう。内海さんによると、送水口のホース接続口には「ねじ式」と「差込式」があり、村上製の「差込式」タイプは出荷数が少ない上に、現存数も少ないのだとか。岡山でこの貴重な送水口を見ることができるので、ぜひ鑑賞してみてください。
表町商店街に点在するレガシーたち
その他のレガシーも一緒に巡りました。
「天満屋岡山本店の旧館外壁には、一部貴重な石材が使用されています。黒っぽい石が中山石(福島県の斑れい岩)、白っぽい石が暁(高知県の石灰岩)と言います。石の専門家で愛知大学教授の西本昌司さんによると、これらは滅多に見ることができない石だそうです」と内海さん。「古い建物は、貴重な石材を保存している場合があるんですね」。
突然内海さんが、ドトールコーヒー横の路地にすっと入りました。
しゃがみ込んで、「ここにはオールド鉄蓋があります。何がオールドかというと文字が右書きです。表町商店街で僕が見つけたのは、この下之町の『制水弁』と中之町の『撒水栓』の2箇所。右書きで、かつ『撒』の字なので(現在は『散』)、かなり古いものだと思います」と解説してくれました。
最後に紹介するのは、西大寺町商店街のシャンデリアです。
「一口に表町商店街と言っても、8つの商店街それぞれに個性があります。このシャンデリアはレトロフューチャーな印象を持つ照明で、西大寺町商店街の個性になっているところ。昭和的な未来という感じですよね。新西大寺町のアクリル看板や、紙屋町のアーケード屋根のデザインなど、かつて『表八ヶ町』と呼ばれた町の歴史を見比べながら歩くのも面白いですよ」と内海さん。
ちなみに、このシャンデリアは、夕方5時ごろ〜8時ごろまで点灯しています(点灯時を狙って、内海さんが撮影してくれました)。
歩き終わって「表町商店街は子どもの頃からよく来ていましたけれど、これまで見えてなかったものがたくさんありました」と溝口さん。
表町商店街という岡山市民にとってお馴染みの場所を、内海さんの視点で歩くという面白い体感ができた一日でした。
