ハレノワにしかない特徴
岡山芸術創造劇場ハレノワは、岡山市民会館と岡山市立市民文化ホールに代わる新しい文化芸術施設。
そんなハレノワの特徴を教えてください。
草加劇場長:
威風堂々とした外観や、大中小の様々な規模を持つ劇場が特徴です。
「芸術創造劇場」と名の付く通り、舞台芸術、特に大型オペラや、ミュージカルの上演に向いた大劇場を備えるとともに、演劇やダンス、伝統芸能を中心とした創造活動にも力を入れています。
当館の運営は公益財団法人岡山文化芸術創造が担っており、この団体が岡山シンフォニーホールも運営しているのですが、双方が「役割を分担しているところ」も面白い特徴だと感じています。
岡山シンフォニーホールは音楽中心のコンサート、ハレノワは身体表現系の舞台芸術と強みを分けることで、それぞれの文化施設の存在意義を補完しあっています。
また、舞台機構設備はオール電動化を採用。
大劇場に設置された約40本の吊物(つりもの)バトンは一人でも操作が可能で、当館ではもっぱら女性が操作を行っています。
舞台上の装置を動かすというと、男性中心の力仕事というイメージがありますが、今は電動化が実現し、舞台芸術の世界にも働き方改革が起きています。
また、吊物バトンは静音性が高く、さらに秒速1.5mまでの可変速で昇降するため、舞台演出の可能性が更に広がっています。
「魅せる」「集う」
そして、「つくる」
「魅せる」「集う」「つくる」を軸に、アーティストと市民が出会う場所を提供したいというコンセプトを持つハレノワ。
館内には様々なアートが散りばめられ、椅子やテーブル等の憩いの場も充実しています。
劇場という枠にとらわれないハレノワですが、そのコンセプトの中でも、「つくる」だけが平仮名なのは、様々な意味を含んでいるからだそうです。
草加劇場長:
著名なアーティストをお呼びして、その人気や需要に頼るだけではなく、まずは観客づくりが大切です。
「つくる」の一つ目の意味は、舞台芸術を観賞した経験がある人をつくっていくということ。
二つ目の意味は、次の世代の劇場人をつくること。まさに、何十年先までハレノワをはじめとする文化的な場所を成長させていく人をつくりたいと考えています。
日本中から集まった45人の精鋭が当館で働いてくれていますが、3分の1は若い方々なんです。
三つ目に、アーティストをつくる。岡山県に住んでくれるアーティストをつくりたいのです。
さらに、それらのことを通し人の輪をつくる中で、最終的には「街の活力とにぎわい」をつくりたいと思っています。
「千日前」という地名は、大阪にある「千日前」の賑わいにあやかった命名で、当時は劇場や映画館が数多く並んでいました。そんな街の賑わいを再生させ、岡山を盛り上げたいと思っています。
圧巻の大劇場
ハレノワの舞台は大劇場、中劇場ともプロセニアム形式の舞台となっています。
プロセニアム形式の舞台では、緞帳やオペラカーテンなどの舞台幕を設備することで、舞台袖や舞台上部などを客席から見えないようにし、舞台装置を隠すことが可能です。そうすることで、大規模な演出ができるという特徴があります。
主舞台の間口18m、高さ10m、奥行16.7mの大劇場は、
1階客席1,054席、グランドバルコニー席14席、2階客席347席、3階客席338席、席総数1,753席(うち、車いす10席)で、朱色を基調とした客席側の内装が印象的。
客席側の壁面には木材を使用しており、朱色に塗装する際は木目が目立つような塗料の選定をしたそうです。
細部にまでこだわった大劇場は、まるで大きな生き物の体内にいるような「安心」と「緊張」を同時に感じられる空間でした。
また、多目的室が設けられており、親子室・同時翻訳ブース等としての利用も可能だそうです。
楽屋は1階に6室、地下1階に5室、2階に5室の計16室が設けられており、観客側も演者側も使い勝手が良い劇場となっています。
中劇場、小劇場、
アートサロンも完備
中四国地方で唯一、大中小の劇場を持つこともハレノワの大きな特徴のひとつですね。
中小規模のスペースを設置した意図は何でしょう?
草加劇場長:
大劇場の1753席を、市民の皆様に自由に使ってくださいと突然言っても、皆様は困られるかもしれません。
加えて、小劇場で活動していた方が、中劇場、更には大劇場を使用できるように活動や表現が成長していくと考えるとドラマがありますよね。
さらに言えば、お客様を舞台に乗せて、客席に演者がいるという劇場の使い方も面白い。固定概念を取り去って、様々な利用方法を提案できる劇場にしたいと思っています。
【中劇場】
主舞台の間口16.15m、高さ10.3m、奥行12.5mの中劇場は、1階客席564席、2階客席243席、席総数807席(うち車いす席6席)と利用しやすい客席数をもっています。
大劇場とは打って変わって、月夜の空のような落ち着いたブルーの空間が印象的。
舞台には可動型の音響反射板を備え、良質な響きを感じられる舞台でした。
【小劇場】
平土間形式のスペースで間口16.6m、高さ6m、奥行16.6mの小劇場は、最大収容人数300席。
客席はロールバック収納式を採用しており、段床状の客席を作ることも、フラットな客席を作ることも可能です。
小劇場の内装は四面ともに黒色の「ブラックボックス」空間となっており、自由な舞台演出の可能性を残す作りになっています。
子どもに舞台の思い出を
岡山県出身である草加劇場長は、幼少期にオルガン教室に通っており、発表会でステージに立った記憶が今でも残っているそう。
コンサートホールや劇場整備のプロデュースで全国を周りながらも、地元岡山県で何かしたいという想いを長年持っていたのだとか。
ハレノワを通して、「岡山県に良い思い出のある子どもたちを育みたい。」と語る言葉には、どんな想いが込められているのでしょうか?
草加劇場長:
生涯残る「なんだか、楽しかった記憶」をつくる場所になりたいと思っています。
例えば、優秀な若者は進学や就職で東京や大阪へ行きますが、「岡山県への帰り方」を知らない状態です。
僕がそうだったように幼少期ステージに立った記憶のような「良い思い出」は、定年退職のタイミングや、若者が仕事に行き詰った時などに、「岡山に帰ろうかな」と思い出させる「道しるべ」になるのではないかと考えております。
道しるべとしての「演劇を観た記憶」「舞台に立った記憶」を残すこと、
そして、芸術文化から派生する教育、福祉、産業、観光といった多面的な価値をまちづくりに活かすこと、
この二つがハレノワの役目だと思っています。
ライター:
草加劇場長、貴重なお話をありがとうございます。
人の和、芸術の輪、にぎわいの環など様々な「ワ」が育っていく成長点が「岡山芸術創造劇場ハレノワ」なのだと感じました。
目前に迫る9月1日のグランドオープンが本当に楽しみです。