昭和レトロな奉還町商店街を歩く!(後編・奉還町商店街)

昭和レトロな奉還町商店街を歩く!(後編・奉還町商店街)
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「奉還町商店街」発祥のルーツは、1867年の大政奉還によって失業した武士たちが奉還金(退職金)を使って商売を始めたことと言われています。「昭和レトロな奉還町商店街を歩く!」後編では、商店街で働く人が推薦する、奉還町商店街(1丁目・2丁目)の歴史的背景やレトロな外観の店、魅力的な店にスポットをあてて紹介。西口エリアのお店も登場します。

掲載日:2023年11月08日

ライター:観光ライター 頼實

昔の面影そのまま 古き良き店構え

前編に続いて、奉還町ユースセンター代表の野村泰介さんオススメのレトロスポットを訪ねてみました。
1件目は、2丁目にある駄菓子屋さん「江陽」。
店内のショーケースや看板は、時代ごとの名残が感じられるノスタルジックな雰囲気です。
店主によると、戦後すぐは飴屋さん。店の奥では、練った飴を切って冷ます作業をしていたのだそう。
カステラや羊羹などが並ぶ進物店やゲーム店などを経て、現在は駄菓子屋さんとして、子どもたちの大切な立ち寄りスポットです。

大政奉還の奉還金で商売を始めた店の中で、唯一現存する「杉山種苗店」も2丁目にあります。
現在の店主で4代目。一際歴史を感じる店構えで、正面にあるカメのロゴは2代目店主が好んで使ったロゴなのだそう。現代にも通じる魅力的なデザインです。
店奥には、様々な種を収納する年代物の抽斗(ひきだし)。「昔は缶詰。それよりも前は布袋で保存していましたよ。今はチャック付きの袋が主流ですね」と4代目の奥様・杉山恵子さんは話します。

店を開業するにあたって、レトロな魅力をそのまま活かしたお店もちらほら。
イタリアの惣菜店「TOMIYA」は、イタリアのお菓子や惣菜、お酒が楽しめる店。テイクアウトも充実しています。
店前の「トミヤ文具店」の看板は、ペンキ書きの看板がなんとも味わい深い佇まい。「親戚ではないのですが、この看板を残したくて。店名も元の店にちなんでTOMIYAにしました」とスタッフの森元佑真さん。
2階部分には、1日1組限定のゲストハウス「キュウノジュウ」(TOMIYA横に入口あり)もあります。

最後は、今年9月にオープンしたばかりの酒店「奉還町山金リカーズ」。
全国の日本酒のほか、備前長船のみそや醤油など地場産の発酵食品も取り扱います。角打ち(有料試飲)ができるのもユニーク。
店舗は、金物店の看板だけでなく、内装も活かした造りで、「土間のコンクリートの歪みや木の壁も当時のまま。今出そうと思っても出せない雰囲気です。味があってそこが気に入っています」とスタッフの豊田泰士さんは話します。

多ジャンルの古着店が魅力向上に一役

奉還町商店街を歩く10代、20代の若者の姿をよく見かけるようになったのは、古着店が増加したこともきっかけの一つ。
現在、奉還町商店街ではアメリカンカジュアルからロック、レトロ、ヒップホップまで古着店約10店が営業しています。様々なテイストの店が揃い、古着の密集地帯である東京・下北沢のような印象も。
古着店オーナーで奉還町商店街振興組合専務理事も務める木村健太郎さんに話を聞きました。

木村さんの呼び掛けで、奉還町では春と秋の年2回、古着フェスティバルを開催しています。
「県内外から約40店が出店し、今回で8回目。非常にたくさんの方が古着フェスティバルに来てくださいます。最近は、ポップアップをしている若い人たちの出店も増えていて、そういった中から商店街に店舗を持つ人も出てきています。岡山で古着なら奉還町と知ってもらえるように、一緒に奉還町を盛り上げていきたいです」

歩くたびにディープな場所を発見

奉還町商店街の顔として、ほとんどの人から名前が上がった大衆食堂「旭軒」。
昭和の初期から始まった大衆食堂で、古き良き時代の雰囲気をそのままに、変わらぬ味を提供しています。テイクアウトや仕出しでもお馴染みです。
数あるメニューの中でも、不動の人気は支那そばとやきめし。旭軒の支那そばは豚骨醤油味で、いわゆる「岡山ラーメン」。細麺にチャーシュー、シナチク、ネギとシンプルで、昔懐かしい味わいです。

惣菜とともに店頭に並ぶ、ふかしいもとサーターアンダギーも人気です。夕方になると、頬張りながら歩く学生の姿も。
奉還町商店街振興組合理事長も務める店主・畝本伸三さんに奉還町の魅力について聞きました。
「約20年前から地域の専門学校生や高校、大学の学生たちと協働して、商店街活性化のイベント企画をしています。毎年7月に開催する土曜夜市も学生さんが趣向を凝らして企画し、大盛況です。若い人たちに来てもらうためには、若い人たちに運営してもらうのが一番だと考えています」

街歩きしながら、フィリピンの食料品店「ティアズ・クッシーナ」にもふらっと立ち寄ってみました。
フィリピンのスナック菓子や調味料など食材が並ぶほか、「シシグ」や「ロミ」 などフィリピン家庭料理を食べることができます。
調理も担当するスタッフのメリーアンさんは「日本文化が面白くて、日本での暮らしを楽しんでいます。日本で暮らすフィリピン人だけではなく、奉還町の人たちも食べにきてくれます」と話します。

キャンドルショップの店舗側面には、お茶屋さんだった頃の名残がそのまま。
奉還町の魅力はアーケード通りはもちろん、一本横道に入った脇道や路地にも。ユニークな店や味わい深い街並みなどディープな世界が広がっています。何度歩いても新しい発見がありました。

岡山に「ばらずし」の歴史あり

少し範囲を広げて、野村さんに西口エリアのお店も紹介してもらいました。
昭和30年代創業の「福寿司」は大衆食堂を経て、1997年に奉還町2丁目で寿司店としてオープンしました。
3代目の窪田悟さんに、看板メニューである「備前ばらずし」について聞きました。
窪田さんによると、ばらずしの最大の特徴は酢飯。
サワラの漬け酢を酢飯に加えること、サワラのあらの煮汁で炊いた根菜を混ぜ込んだ五目ずしであること。この2点がポイントです。そして具材は、サワラ、ヒラ、ママカリなど魚介類、蓮芋、舞茸、ムカゴ、栗など30種類以上(季節や入荷状況によって異なります)。

窪田さんの父・清一さんが執筆した「岡山の備前ばらずし」(岡山文庫・1992年)によると、ばらずしの起こりは鎌倉時代、備前福岡(瀬戸内市長船町)で、「どどめせ(五目めし)」に濁り酒が偶然入ったことだとされています。
その後、庶民の間でばらずし文化が広がり、地域や家庭ごとにアレンジされていきました。
「県北では干しエビや川魚、県南の倉敷ではイイダコなど、家庭で作られるばらずしの中身は、その土地ごとで異なっています」と窪田さんは話します。岡山で食べてほしい味の一つです。

岡山駅西口に新たな焙煎場をオープン

最後に紹介するのは、奉還町ユースセンターの和泉さんおすすめの「エンパイアコーヒースタンド」。
奉還町1丁目の端っこの黄色いお店で、学生や通勤途中の人、商店街の人たちが頻繁に買いに来ていました。
今年4月、クラウドファンディングで資金を募り、スタンド横の建物2階にカフェ兼焙煎場をオープン。
焙煎士兼バリスタの大橋昌平さんに聞きました。
「コーヒーの魅力は人が手積みし、目で見て焙煎し、バリスタの手によって注がれる。全て人が関わっているところです」。

「焙煎はもちろん、豆の挽き方、お湯の温度など、微妙な変化でまったく違うコーヒーになってしまいます。その人に合った一杯を提供したいという思いから、お客さまとのコミュニケーションを大切にしていきたい」と大橋さんは話します。街歩きの休憩ポイントとして立ち寄ってみてはいかがでしょう。
奉還町商店街とJR岡山駅運動公園口(西口)周辺を紹介する「まち歩きMAP」(西口活性化協議会発行)も参考に、好きな場所や店を発見してみてください。

岡山市公式観光情報 OKAYAMA KANKO.net