四季折々で異なる表情をみせる町並み
旧足守藩主木下家の庭園である近水園(おみずえん)は、岡山県下で、岡山の後楽園、津山の衆楽園と並ぶ大名庭園の一つです。岡山県指定名勝にも選ばれ、小堀遠州流の池泉回遊式庭園が特徴です。園内には珍しいマリア灯籠もあります。
足守は、幕末の蘭学者・緒方洪庵や歌人・木下利玄など偉人を輩出した歴史好きには魅力的な地。
大阪で「適塾」を開いた緒方洪庵は、足守藩から要請を受け、天然痘治療のため除痘館を建て治療にあたりました。
現存する木下利玄の生家は(近水園横、内部の見学は不可)、荒壁の長屋門風の建物や土蔵などが風情ある佇まいで、この辺りは、近水園とともに散策にオススメ。紅葉や新緑など四季折々、美しい景観が楽しめます(写真は11月中旬撮影)。
毎年2月上旬〜3月下旬にかけて、町並み保存地区一帯では、明治・大正・昭和初期の貴重な雛人形が飾られる「陣屋町足守 町並み雛めぐり」が開催されます。近水園や武家屋敷、個人宅で代々受け継がれてきた雛人形が飾られ、町全体で華やいだ雰囲気が楽しめます(写真は昨年2月撮影)。
今年は2月6日〜3月23日の日程で開催。詳細は近水観光振興会のwebサイトを確認してください。
また、足守藩侍屋敷は保存状態がよく、当時の武家の生活を知る上で貴重な存在。土間の台所には竈門、中庭には井戸や石の洗い場など、江戸時代の武士の暮らしぶりが想像できるような展示内容です。
江戸時代末期に建築された「藤田千年治邸」も必見。醤油の醸造の過程で使われた当時の絞り機などを展示しています。何代にも渡り伝統的な醤油造りを手掛けていた商家の雰囲気は、昔の日本にタイムスリップしたような気分になります。
土捻りや絵付け体験で思い出作り
旅の思い出になる体験コースもあります。
観光交流施設「足守プラザ」では、陶芸や工芸の体験ができ、お皿やコップなどの土ひねりやお面やマグネットの絵付けなど、さまざまなコースが用意されています。
この時期のオススメは、干支(辰)の土鈴絵付け体験。毎年異なる干支の制作を楽しみにしているリピーターも多いそうです。
内容は、素焼きの土鈴にアクリル絵の具で好きな絵付けができるというもの。
事前予約が必要で、時間は9時30分〜、12時30分〜、14時30分〜の3部制。
制作時間は90分以内で、完成した作品は当日持ち帰ることができます。玄関や部屋に飾って、新年を迎える準備をしてはいかがでしょうか。
休憩には、地元・足守メロンのジュースをどうぞ。
足守プラザ内にある食事処「洪庵茶屋」では、足守産メロン100%のメロンジュース(600円)を味わうことができます(生産の都合上、冬季は販売中止の場合もあります)。足守メロンは糖度14度以上。温室栽培で、一つの苗から一玉だけを育てるため、甘さと香りは格別です。
足守でのメロン栽培は昭和初期から始まりました。
品種はアールスメロンが主流で、「メロン団地」という可愛らしいネーミングの温室で、一年を通じて栽培されています。
また、足守プラザには、明治時代の米蔵を改装した米蔵ギャラリー(貸しスペース)も。2月の雛めぐりでは、毎年「絵手紙展」が開かれるなど、地域の人たちの発表の場としても活用されています。
アンテナショップのような人気カフェ
スパイスカフェ「RATIO」(レシオ)は、スパイスをたっぷり使った料理を提供する人気店です。元々は薬局だったという建物をリノベーションして移転オープンしました。
20年以上、カナダで料理人として活躍した飯塚恵太郎さんが料理を手掛けます。
人気メニューは「海老と帆立のソテーカレー」(1450円・1日30食限定)。コリアンダーとクミンをベースに、4,5種類のスパイスを使用したルーに、大きなエビと帆立、アスパラガスやパプリカなど野菜もたっぷりで入っています(ルーはテイクアウト可)。
テイクアウトメニューのフルーツサンドやお弁当、お寿司、ケーキも評判です。
甘めの酢飯を使った焼きサバ寿司は、地域の人たちからも大好評の隠れ人気メニュー。お弁当の注文は随時受け付けています。
地元産を積極的に使用する飯塚さんは「間倉ごぼうは、柔らかくて煮しめにぴったり。間倉ごぼうを使ったごぼうのキーマカレーなどもあります」と話します。
店内には、テイクアウト商品と並んで、足守の特産品を扱うコーナーもありました。さながら、地元の魅力をPRするアンテナショップのようです。
この日は、安富牧場の「まじめなアイス」や湯浅養鶏場の卵などが並んでいました。
ユニークな商品も発見しました。
バナナやりんごなどフルーツなのかとよくよく見てみると、なんとフルーツの形のオカリナでした。
下足守の工房で制作しているというので、訪ねてみることにしました。
可愛くて楽しい「フルーツオカリナ」の誕生秘話
フルーツオカリナを考案し、制作しているのはオカリナ演奏家の軽部りつこさんです。
自宅兼工房で、通常のオカリナとともに、様々なオカリナを制作しています。フルーツオカリナだけで10種類以上。岡山県を代表する清水白桃、マスカットはもちろん、バナナ、柿、メロン、みかんなどどれも本物そっくりの出来栄え。制作は実際の果物で型取り(柔らかい果物以外)した粘土を素焼きし、アクリル絵の具で色付けしています。
「最初にできたのは桃です。テレビ番組出演をきっかけに、フルーツ大国岡山を盛り上げるようにアドバイスを受け、バリエーションが増えました。果物ごとに音の高さが異なるので、フルーツが複数集まればオーケストラが実現できます。先日は、中央卸売市場の有志の方たちで『市場果物笛オカリナ隊』を結成し、記念イベントでアンサンブルを披露しました」と軽部さん。
来年1月からは、岡山市のふるさと納税の返礼品にもなるそうです。
購入は、足守プラザ(桃のみ)かスパイスカフェ「RATIO」で。または、studioさんぽみちのwebサイトから。
町おこしに新しい風も
足守の魅力を発信するイベントとしては、11月中旬に開催された「葦の森・足守おさんぽマルシェ」(毎年11月の年1回)があります。
3日間の開催で、手作り雑貨やパン、陶芸、コーヒー、花の販売のほか、ワークショップ、タイマッサージなど盛りだくさんの内容でした。人気料理家によるお弁当販売もあり大盛況。年々出店数は増えていて、地元からの出店と、足守以外からの出店はだいたい半々といいます。
葦の森・足守おさんぽマルシェ実行委員会の仲田未来さんは「足守と繋がりがあって、足守が好きな人たちにも出店してもらっています。これまで長年、葦の森を開催されていた方から引き継いで、今年で2回目。まずは、足守の良いところを、来ていただいた人たちに知ってもらいたいですね」と話します。
仲田さんのオススメスポットを尋ねると、下足守にある葦守八幡宮内のフクロウの木との答え。地域一帯では、夜になるとフクロウの鳴き声が聞こえることもあるそう。
町並み保存地区に宿泊施設を整備して、足守の魅力を発信しようと力を入れる人たちもいます。
レンタルスペースなども手掛ける「あしもり遊学舎」は、コロナ禍で受け入れを中断していた期間を経て、ゲストハウスAZUMAを来年1月から再開する予定です。
全3部屋で料金は1人1泊3000円(1月から料金改定予定)。サイクリング愛好家のために、屋内駐輪場も用意。近隣の棚田を巡るコースなど、地域の魅力を発信しています。
また、あしもり遊学舎は古民家再生も推し進めています。
代表の森安章さんは「明治から大正時代に建てられた古民家を再生して新しい宿泊施設を作るプロジェクトをスタートさせました。AZUMAとは異なり、年月を経た古民家の風合いをわざと生かしたデザインになる予定。わざわざ遠方からでも泊まりたくなるような場所を目指しています」と話します。
今後は泊まりがけで、足守をゆっくりと遊び尽くせそうですね。