前川建築を味わい尽くす「岡山県庁舎見学ツアー」が大好評

前川建築を味わい尽くす「岡山県庁舎見学ツアー」が大好評
お気に入りに追加
歴史・文化 アート 風景 体験・学び イベント

1957年に竣工した岡山県庁本庁舎本館、議会棟旧館、1971年に竣工した西庁舎が今年7月、国の登録有形文化財に新たに登録される見込みとなりました。本庁舎本館は、日本の近代建築をリードした建築家・前川國男が初めて手掛けた庁舎建築。細部に至る機能美は古さを感じさせず、今も見る人を惹きつけます。増築を重ねた建物には、軽量化や合理性を意識し、前川が取り入れた当時の最先端技術が随所に散りばめられています。戦後復興のシンボルとして60年以上県民から親しまれ、耐震化工事を経て生まれ変わった岡山県庁舎の見学ツアーを体験してきました。

掲載日:2024年09月25日 最終更新日:2024/09/19

ライター:観光ライター 頼實

月2回、参加無料の見学ツアーを開催

本庁舎本館は地上9階、地下1階建ての鉄骨鉄筋コンクリート造り。柱と梁のフレームで建物を支えるラーメン構造を採用しています。
本庁舎本館、議会棟旧館、西庁舎は、前川の師でフランスの建築家・ル・コルビュジエが提唱した「ピロティ」「屋上庭園」など近代建築の5つの要素を取り入れ、戦後民主主義の建築化、モダニズム建築を実現している点が認められ、国の登録有形文化財に新たに登録される見込みとなりました。

そんな前川建築の魅力をじっくりと堪能できる「岡山県庁舎見学ツアー」(所用時間約120分)を原則月2回、開催しています。定員10人程度(先着順)で、参加費無料。申し込みは、岡山県HPで受け付けています(中学生以下の場合は保護者同伴)。
ツアーを実施する土木部都市局建築指導課建築審査班の中山明さん、藤井理代さんの2人に見どころを案内してもらいました。

はじめに、建築家・前川國男の略歴や建築への考え、県庁舎の概要(あゆみ、平面計画、特徴など)をスライドを使って予習します(10分程度)。座学が終われば、見学ツアーがスタート。8年ぶりにオープンしたばかりの食堂「おかやま晴れの国食堂」内に、早速気になる建造物が。

食堂がオープンした場所の一部は、実は元金庫です。
「改修前の2021年まで実際に使われていた金庫と螺旋階段です。1階には、お金を扱う会計課や銀行があり、地階の金庫につながる螺旋階段は、そこの職員のみが使用していたもの。職員でも限られた人しか存在を知りませんでした」と中山さん。
藤井さんによると、岡山県庁舎には螺旋階段が3つあるそう。食堂はそのうちの一つで、自由に見学できる唯一の螺旋階段です。

県民室横のギャラリーは見学自由

続いて、1階の県民室へ移動し、ギャラリー(見学自由)でパネルや模型、実物を見ながら、県庁舎の歴史と建築の特徴について解説を受けます。
全国に200以上ある前川建築ですが、県庁舎敷地内の建物は、「軽量化・工業化」、「打放しコンクリート」「打ち込みタイル」の前川建築の特徴を兼ね揃えています。一度の見学でこれらの特徴を見られるのは嬉しいですね。

本庁舎は柱と梁で支えるラーメン構造ゆえに、自由な空間設計が可能に。当時は、工場で製造された木製の「可動間仕切り」が活躍していましたが、現在は間仕切りを取り除き、課と課がオープンフロアで隣り合った風通しの良いスペースに生まれ変わっています。
そのほか、工業化製品の一例として、「カーテンウォール」「ホローブリック」など耐震改修前まで実際に使われていたパーツを展示。軽量化や工業化を追求した建築家の姿に触れることができます。

ツアーの醍醐味「展望室」へ

普段立ち入り禁止のエリアに入れるのは、ツアーならでは。東側塔屋の展望室はそんな見どころの一つです。
9階フロアから螺旋階段を登ると、ガラス張りの室内へ。驚くことに、展望室は歩くと揺れます! 宙吊り状態の床は四角を鋼材で吊っているという遊び心満載の設計です。「一度に上がれるのは4、5人程度。どうしてこのような設計をしたのか前川さんが生きていたら聞いてみたいですね」と中山さん。工場製造のステップを支柱に差し込んだ階段にも注目を。

展望室は360度視界が開けていて、北に岡山城や後楽園、南に旭川や京橋など岡山らしい眺めが見渡せる”特等席”です。この展望室は、故・三木行治知事のお気に入りの場所だったそうで、この眺望について「この屋上に案内すれば、瀬戸内海のタイ、備前平野のマスカット以上のご馳走である」という言葉を残しています。
屋上に出ると、屋上庭園も見学できます。

断面萌え!のオリジナルパーツも

本館から渡り廊下を進んだ先にある議会棟旧館も案内してもらいました。
階段の木製手すりの断面に思わず萌え! 手に馴染む温もりあるデザインで、どことなく「だるま」のようにも見えます。
東京や神奈川など他の前川建築の木製手すりも個性的なデザインのものがあるようなので、見比べたら面白そう。キラキラした階段のエッジは真鍮製です。

「見学者のみなさんは階段の裏側にも驚かれますよ」と中山さん。議会棟旧館の階段は、コンクリート梁が階段をダイナミックに支えていて、裏側も“魅せる”前川建築の美学を感じました。
手すりの曲線や階段足元のタイルなどの細部。全体の重厚なイメージの中に垣間見える繊細さに、すっかり前川建築のファンになりました。

1階の県民室の柱にも気になる断面が。
このスペースはもともとは2階がありましたが、1991年の東棟増築に合わせて2階の梁と床版(スラブ)を撤去し、開放的な空間へと生まれ変わりました。その梁跡がコンクリート柱に残されていて、建物の歴史を感じられる味わい深いものになっています。レトロ調の照明器具も、備前焼レリーフを設置した県民室の雰囲気によく合っています。

9階会議室の左右には、R階梁というアーチ状の構造物の一部が露出しています。元々、ここに通路はなく、大きな会議室を覆うアーチ状の天井に合わせた梁ということですが、壁面をぶち破った”型破り”な構造に驚かされます。屋上庭園側からは、アーチ状の構造を今も見ることができます。

回廊、ピロティなど見どころ満載

普段立ち入ることができない回廊も歩きました。
パリ五輪体操で4つのメダルを獲得し、県庁を表敬訪問した岡慎之助選手が手を振っていた場所です。ここからは、凹凸のある独創的なカーテンウォールを間近で観察できます。軽量化を考え、改修時にスチール製からアルミ製へ変更。その美しさにしばし見惚れました。

外周3階バルコニー部分には、前川建築の特徴の一つ、日よけのために開発された穴あきレンガ「ホローブリック」を配置しています。回廊から本庁舎本館、議会棟旧館までは「一筆書き」で繋がっていて、屋内外の空間のつながりを意識した前川建築の考えを表しているのだそう。
ホローブリックは、県庁と同時期に建築された神奈川県立図書館旧本館(現在、改修工事中)のために開発されたレンガで、他の前川建築でも多く採用されているそうです。

見学ツアーの最後に、県庁舎の見どころや前川建築の魅力がまとまった「岡山県庁舎1957-2024」というガイドブックをいただきました。オールカラーで全38ページ。写真の美しさに加えて、前川建築の詳細が分かる充実ぶり。写真撮影から編集デザインまでを、土木部都市局建築指導課の担当者自ら行ったそうです。このガイドブックは非売品で、ツアー参加者のみに配布してるので、ぜひツアーに参加してゲットしてください。

この他にも紹介しきれない見どころが多数あります。
ツアーに参加しなくても見て回れる部分もあるので、ガイドブックとは別に簡易版として製作された「岡山県庁舎建築のしおり」(岡山大学の学生さん作成。ギャラリーに設置)を片手に、建築の美しさに触れてみてください。
また岡山市内には、岡山県庁舎以外に「岡山県天神山文化プラザ」、「林原美術館」の2つの前川建築がありますので、合わせて訪れたいですね。

岡山市公式観光情報 OKAYAMA KANKO.net