“成層圏ブルー”の美しさに惚れぼれする「天プラ」
最初に紹介するのは、「屋上庭園」や「ピロティ」を合わせ持つ「岡山県天神山文化プラザ」(通称:天プラ)です。
1962年に図書館やホール、展示室、日米文化センターの複合施設「岡山県総合文化センター」として開館し、長く親しまれてきました。2005年に耐震化など大規模改修が行われ、ホールや展示室の機能はそのままに、練習室、会議室、文化情報センターを新たに備えた芸術文化の拠点としてリニューアルオープンしました。
2017年、前川の仕事を伝える天神山文化プラザ特別企画展「天神山迷図」で制作された展示パネルの一部は今も活躍中。大学生が考案した案内板にも前川國男モチーフのデザインが。天プラが幅広い世代から愛されていることが分かります。
2階にある文化情報センターには、前川とともに仕事をした水之江忠臣デザインの図書館閲覧用の椅子があり、実際に座ることもできますよ。
ロビーに入った瞬間、その美しさに思わず感嘆の声が。前川がこだわり抜いた特別な色“成層圏ブルー”の天井に、ランダムに配されたダウンライトがまるで星空のようです。三角の窓からは柔らかな自然光が差し込み、よく見ると、星空は屋外エントランスの庇の上まで続いています。
ロビーは、コンクリート壁面を切り裂く大小のデザインや、支えなしの打ち放しコンクリート階段など見どころ満載です。
屋上では三角窓の裏側を見ることができます。実は、三角窓の周囲はベンチになっていて、屋上庭園として、利用者の憩いのスペースになるよう設計されています。
屋上出入り口にも、成層圏ブルーカラーの壁とビビッドな赤いドアがあり、とてもお洒落。
現在は立ち入り禁止の屋上ですが、予約すれば、スタッフとともに見学することができます。
開館当初から現在まで“フル活用”の愛され建築
天プラは高低差のある地形を利用した建築です。坂の下から続く外階段を登っていくと、ピロティ(1階)が現れます。
ピロティは柱だけで構成された開放的な空間で、黄色い天井と吹き抜けに配置された大きなレリーフ「鳥柱」が印象的です。レリーフ作者は彫刻家の山縣壽夫。前川との夢のコラボが実現しています。
駐車場からも直結したピロティは、展示室やホール、2階ロビー、中庭へ続く中間にあり、自然と人が集う場所になっています。
案内してくださったのは、主任で学芸員の須波葵枝さんです。
「建物と自然との調和も見ていただきたいです。小高い山になっている天神山には、かつて天満天神が祀られていました。前川さんは、総合文化センターを建築する際、巨岩『天神岩』や自然を生かした設計をしています。おかげで周囲は大木も繁る気持ちの良い空間になっています」と須波さん。建物北側には、宇喜多秀家の時代に築かれた中堀跡の石垣も残っています。
外装には、日差しを遮るためプレキャストコンクリートのルーバー(羽板)を配置。プレキャストコンクリートとは、現場ではなく、工場であらかじめ生産された部材のこと。工業化や効率化のために考案された当時の最先端技術でした。
建物南側(駐車場側)は強い夏の日差しを避けるために水平に、北側(図書館が以前あった側)は朝日と西日を調整するため垂直になっているのだとか。
写真の「第3展示室」は、以前は図書館だったスペース。
取材したこの日は、展示室やホールで、絵画や写真の展示会、音楽イベントのリハーサルなどにフル活用されていました。
こだわりの意匠や建築家の遊び心がたっぷり詰まった天プラは、開館当初から現在に至るまで、地域自慢の名建築なのだと感じました。
風合いある、焼き過ぎレンガを利用した「林原美術館」
続いて紹介するのは「林原美術館」です。
1964年に「岡山美術館」(林原美術館の前身)という名称で岡山城二の丸屋敷対面所跡地に開館。
敷地内は前川建築と、旧生坂藩向邸から移築した長屋門、蔵、また庭の茶室とが調和した落ち着いた雰囲気です。
外壁には、不揃いな焼き過ぎレンガが積み上げられ、独特の味わいと重厚感を醸し出しています。場所によって、レンガの積み方にはいくつかのパターンがあります。
建物全体を見回すと、軒先、庇、格子、プランターなど様々な部分に前川建築の特徴の一つ、プレキャストコンクリートが取り入れられています。ロビーから展示室を通り、ロビーに戻る流動的な動線にも「一筆書き」が採用されています。
直線と曲線からなる手すりや、アールを描いたカウンターテーブルなどラウンジのしつらえにも注目を。
林原美術館は、コンクリート、ガラス、スチール、石といった材質にレンガが合わさることで生まれる温もりを感じます。
近代建築5つの要点を持つ「岡山県庁舎」
ル・コルビュジエが提唱した近代建築の5つの要点、「ピロティ」「自由な平面」「自由な立面」「水平連続窓」「屋上庭園」の要素を取り入れているのが岡山県庁舎です。
1957年に本庁舎本館と議会棟旧館、1971年に西庁舎が竣工。耐震化工事を経て、これらの建築は登録有形文化財に登録される見込みとなりました。1階ギャラリーでは、前川建築の見どころや県庁舎の歴史について学ぶことができます。
サンクンガーデン(庭園)では子どもたちが走り回る姿も。
一段掘り下げられたガーデン部分は、開放的で立体的な空間です。この高低差が、地下部分への採光や通風に役立てられているのだとか。
ガーデンを囲むように配置されたベンチに座ると、「開かれた県庁舎」「県民の家」の名の通り、美しい庭園を眺めながら、誰でも休憩することができます。
前川國男が設計した石碑3箇所
最後に、前川國男が設計した石碑3箇所を紹介します。
岡山後楽園の西外園には、1961年に建立された兵庫県出身の詩人・有本芳水の詩碑があります。
石畳の中に小さな池があり、中に2つの石を配置。方柱形の石には、「小とりよ」という有本の詩が刻まれています。この場所は、憩いのスペースとして、お弁当を広げる人もいるそう。
2つ目は、1963年、曹源寺庭園に建立された「ねむりづか」。谷口古杏が詠んだ俳句を刻んだ石とともに、さまざまな造形の石があり、その並びからは想像力を掻き立てられます。
最後は、岡山市東山(新天地育児院内)にある石井十次記念聖園です。
「岡山孤児院」生みの親として福祉事業に貢献した石井十次生誕100年を記念し、大原總一郎や谷口久吉ら当時の財界人が1965年に建立。前川國男が設計し、彫刻家・流政之が施工しました。
現在も周囲の手入れが行き届き、石碑を囲むように花が植えられているのが印象的でした。見学を希望する場合は、新天地育児院に問い合わせを。
誰もが集い、交流できる建築や石碑を考えた前川國男。どの作品からも、建築家の遊び心とともに、利用する「人」を中心に考えて設計した信念が感じ取れました。