古墳大好き中学生・はにお君と歩く岡山の古墳(操山古墳群・後編)

魅惑の古墳が点在する尾根筋を歩く
前編で紹介した旗振台古墳から沢田、円山方向に向かって尾根筋を歩くと、沢田裏山古墳(17号墳)、八畳岩古墳(19号墳)、二股古墳(24号墳)と見どころが続きます。まず目に飛び込んできたのは、横穴式石室が露出した八畳岩古墳です。崩れた側壁から入室すると、天井石が大きいことに気づきます。前編で教わった奥壁チェックも欠かせません。八畳岩古墳のすぐ近くに、巨大な玄室を持つ古墳(20号墳)もありました。
後編で紹介する古墳は、八畳岩古墳、二股古墳。円山不動明王、副葬品が多数出土した前方後円墳・金蔵山古墳。そして、はにお君から教えてもらって、後日、散策した沢田、円山地区にある沢田大塚古墳、石鉄山(いしぐろやま)古墳などです。本格的に暖かくなる前のこの時期(虫や蛇との遭遇が比較的少ない)が古墳巡りのチャンス。肌が露出しない服装で、古墳巡りを楽しんでください。
激レアの「二股古墳」は必見!
“激レア古墳”として、はにお君の著書「岡山100名墳」にも登場する憧れの横穴式石室の円墳・二股古墳も見ることができました。鉄塔が見えたら、案内板を右折してください。
県内で唯一この古墳だけ、石室が「Y字」に分岐していて、主室(右)と脇室(左)に分かれているユニークさ。
「二股古墳は全国的にも大変珍しい古墳です。主室と脇室には関係の深い2人が埋葬されたと考えられています」と、はにお君が教えてくれました。
周辺には、このほかにも横穴式石室墳が数基あるそうで、当時の有力家族の古墳群だと考えられています。
続いて、円山不動明王古墳へ。「この場所は気がつかずに通り過ぎる人もいるようですが、円山不動明王の本殿裏手に回ると、古墳があります。号数はなぜかありません」
石室は信仰の対象となっていて、一段掘り下げられた石室の奥に水が湛えられ、榊や御神酒が祀られていました。
石室はきれいに整えられていて、大切にされていることが分かります。奥壁に注目すると、どことなくアーティスティックな表現です。絶妙な石の配置が魅力的な奥壁で、水が湛えられている様子も神秘的でした。
竪穴式石室にも入れる!?金蔵山古墳
岡山シティミュージアムの企画展「吉備の大古墳展」で出土品を見てから、一度訪れてみたかった金蔵山古墳(30号墳)へも案内してもらいました。
金蔵山古墳は岡山県内第4位の規模の前方後円墳で、築造された4世紀には中四国で最大の古墳でした。後円部に竪穴式石室があり、小さな穴から入室することができます。この日は、竪穴に入って戻ってくる自信がなくて著者は断念しましたが、いずれリベンジしたいと思いました。
墳丘の斜面の石をまじまじと観察し始めた、はにお君。「墳丘の斜面に敷かれた葺石(ふきいし)が観察できます」と解説してくれます。
このほか、古墳の西側の儀礼が行われた造り出し、東側の島状遺構といった貴重な施設も実際に見ることができます。
そして、金蔵山古墳の魅力の一つが数多く出土している副葬品です。
金蔵山古墳の個性的な埴輪たち
金蔵山古墳の造り出しや島状遺構からは、儀礼に使用されたと考えられる家形、柵形、囲形といった珍しい埴輪や円筒埴輪が多数出土しています。
写真は、岡山市埋蔵文化財センター(岡山市中区網浜)の企画展「意匠 着想 形象」(開催は2025年3月21日まで)で展示されていた埴輪や土製品です。柵形埴輪は、一見“バラン”のような可愛らしい形。横にあるのは、あけび形の土製品。当時の人々の死生観や暮らしの様子が浮かび上がってくるような生き生きとした出土物を見に行ってみてください。
建物形埴輪や導水施設形埴輪なども。導水施設形埴輪の内部には、水を流す木樋や貯水槽の構造があるという珍しい造形です。同センターの安川満所長によると、導水施設を伴う埴輪は、水の安定的な供給を願う祭祀、死者を一定期間安置した葬祭施設、誕生にかかわる祭祀など諸説あるそうです。「王権にかかわる重要な祭だったことは確かです」と安川所長。
これらの埴輪にはファンも多く、同センターでは、ペーパークラフトのPDFを公開しています。
巨大石室が印象的な沢田・円山地区
後日、部活や塾で忙しいはにお君に代わって、沢田・円山地区の古墳群を父・哲哉さんに案内してもらいました。まずは、石鉄山頂上の「古墳の森ふれあい広場」にある石鉄山古墳へ。この古墳の上にも三角点が。
開口部が狭いことに一瞬怯みますが、思い切って入ってみると、玄室は驚くほどの広さです。石室に入る時の注意点は、虫対策で長袖長ズボンを着用、また、明るい懐中電灯を持参してください。
はにお君がぜひ行ってほしいと話していたのが、石鉄山から笠井山に向かう散策路にある操山55号墳です。この古墳は奥壁側が崩れていて、そこから入室します。はにお君注目ポイントは、はんぺんのような三角形の天井石。「通常、天井石には長方形の石材を使うことが多いのですが、ここは珍しい形の石材を使っています」と教えてもらいました。
奥壁側から入室して、羨道や袖石を見るのは新鮮な体験でした。
今回、最も難易度が高かったのが、金蔵山から笠井山へ向かう散策路南側にある58号墳。すでにビギナーの域を超えていましたが、哲哉さんの案内で玄室に入ることができました。
埋もれて非常に狭い羨道部分は匍匐前進。一方、玄室に入ると大型で広々。大人が立ってもまだ余裕がある天井高です。写真は奥壁側から羨道をみた様子。
円墳の墳丘自体は大きいですが、散策路から少し外れているので見つけにくいかもしれません。
最後に紹介するのは、操山古墳群最大の石室の沢田大塚古墳(40号墳)です。ここは羨道から玄室まで立ったままで入室できる大きさ。奥壁はほぼ3段の巨石が積まれています。左袖石や天井石にも非常に大きな石が使われていました。沢田大塚古墳へは、沢田大池側から集落を抜けて入るルートもあるので、アクセスしやすいです。
今回、紹介してもらった古墳はほんの一部。執筆中という操山古墳群の本の発刊が待ち遠しいです。
岡山県内の古墳をまとめたはにお君の「岡山100名墳」は、イオンモール倉敷の喜久屋書店、TSUTAYA AZ岡南店、泰山堂書店川崎医大店。県外では、大阪の河内こんだハニワの里大蔵屋、京都の法蔵館書店で販売中。在庫は書店にあるだけなので気になる方は早めに入手を。