都市鑑賞者・内海慶一さんと行く町歩き〜表町商店街の看板編〜
きらめく“ダイヤモンド”が宝飾店の目印
表町商店街の北端のアムスメールタワー(時計台)から町歩きスタート。商店街を南下していくと、最初のお目当て、ダイヤモンド型の看板が見えてきました。1896年(明治29年)創業の「服部時計店」の看板です。
代表取締役の服部良広さんによると、看板は、3代目だった祖父が1991年のアムスメール上之町(岡山上之町商店街)アーケード設置のタイミングで取り付けたもの。どこから見ても「宝飾店だ」と分かるようにしたといいます。
「ステンドグラス調のデザインがキュート。文字を一切入れない潔さが素晴らしい。気品があります」と内海さん。
服部時計店は今年、創業130年で、表町商店街の中でも老舗店の一つです。服部さんから驚きのエピソードが。「岡山大空襲のとき、お預かりした修理品を収めた金庫が焼け残ったため、商売を続けられたと聞いています。金庫は近くの銀行から譲り受けた一間(約2メートル)もある大きなもの。熱で壁面が曲がっていますが、開閉には問題なく、現在も使用しています」。
初見では読めない!「肉の佐々奈美」
中之町の交差点の東側に、毛筆で書いたような一際目を引く文字があります。書いてあるのは「肉の佐々奈美(さざなみ)」(初見では読めないこと請け合い!)。「佐々奈美精肉店」は1919年(大正8年)創業で、現在の店主・岡崎さんで4代目です。
「読めない店名でも良しとしているところに、歴史ある老舗店の貫禄を感じます。立体文字の造形も見どころですね」と内海さん。
岡崎さんが、普段はつけていない立体文字の照明をつけてくださいました。これには、内海さんも満面の笑み。
「店名には『波風を立てないように、さざ波(小さな波)ほどで』という思いが込められていると聞いています」と岡崎さんは話します。
店内では、精肉店に加えて、串カツやハムカツなど熱々の揚げ物の販売もしています(イートインかテイクアウトを選べます)。
80'sを過ごした人には懐かしい看板
続いて、婦人服・子供既製服店として、1946年(昭和21年)に創業した「かんさい」です。
内海さんの鑑賞ポイントは、店舗側面にある少年と少女のイラストです。「80年代を過ごした人には懐かしい、『こういうのあったな』という味わいのイラスト。かわいいですよね」。突き出し看板の「かんさい」の文字や、正面入り口にある、本物のガラスのネオン管もチェックポイントです。
店長の吉藤さんによると、店名の由来は、縫製の修行に初代創業者が関西に行ったことから。制服や軍服の縫製工場を経て、戦後、今の「かんさい」創業者である祖母が東京まで行き、既製服を買い付けていました。
店は何度も改装を重ね、現在の店舗デザインは1980年代のもの。名古屋のデザイナーにオーダーし、業界新聞の一面に掲載されるほど当時話題に。少年少女のイラストは、改装後しばらくして、地元の業者に設置してもらったそうです。
先代の心意気を今に伝える手書き看板
表町三丁目まで歩くと、金物店「木畑商店」のレトロ看板が気になります。横書きで右から左へ「漆器雑貨」。
電話部分の②は、電話回線加入者が増加した時代背景を感じられる名残。看板の住所部分には、旧町名「紙屋町壹(一の旧字)」が残っています。
「右書きの店名と迫力ある手書きの筆致にグッときます。博物館にあってもおかしくない。文化財レベルだと思います」と内海さん。
創業は昭和の初期。いかにも戦前の看板と思いきや、「戦後すぐ先代が現在の店を建てましたが、その時に知り合いに頼んで書いてもらったのがこの看板です。『自由に書いてほしい』と注文すると、左書きが主流だったのに、わざと昔っぽく右書きで書いたそうです」と店主の木畑さんに教えてもらいました。
看板右側の木枠には、鍵屋さんだった頃に、鍵の看板を吊るしていた名残の釘跡も。
連作アクリル看板の文字を愛でる
最後に紹介するのは、新西大寺町商店街アーケードに連なるアクリル看板です。
設置当初を知る、長谷川楽器店の代表取締役・長谷川誠さんによると、アクリル看板の登場は、1972年(昭和47年)の新西大寺町アーケード設置のタイミング。「S」のデザインは共通で、店名のデザインが店舗ごとに異なっています。
「一つひとつの店名の文字がちゃんとデザインされていて、連作として素晴らしいですね」と内海さん。
内海さんのお気に入りは、ルーペと眼鏡が文字の中にある「メガネの保崎」だそう。
「職人さんが作った看板の文字は全て一点もので、個性を感じるし面白い部分です。私が影響を受けたのは、藤本健太郎さんの『タイポさんぽ 路上の文字観察』(誠文堂新光社)という本。この本をきっかけに、町に溢れる看板の文字の楽しみ方を知りました」と内海さん。岡山にはこの他にも、素敵な看板がたくさんあるそう。デジタルフォントではない、職人さんの手仕事の技が光るお気に入りの文字を探してみてください。
